WAM融資返済ラッシュ到来:医療機関の経営安定化への実践的対応 - ファクタリング

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WAMコロナ融資返済ラッシュ到来:医療機関の経営安定化への実践的対応

医師のイメージ

はじめに:2025年、医療機関が迎える返済の波

2025年、医療機関は重要な財務的転換点を迎えようとしています。新型コロナウイルス感染症対策として2020年以降に実施された福祉医療機構(以下、WAM)によるコロナ関連融資の返済が本格化するためです。WAMによるコロナ関連融資(以下、WAMコロナ融資)は累計約5万件、総計2兆931億円[1] におよび、返済開始を迎えるにあたり特に病床数200床以上の中規模病院への影響が懸念されています。

WAMコロナ融資の返済は単なる返済負担の増加にとどまらず、医療機関の医療提供体制全体に影響を及ぼす可能性があります。地域医療の安定性維持という観点からも適切な対策が求められています。

  1. [1]独立行政法人 福祉医療機構 .”令和5年事業年度事業報告書”.独立行政法人 福祉医療機構HP.2024, https://www.wam.go.jp/hp/koukai-tabid-63/koukai-houkoku-tabid-110/,(参照 2025-03-10).

WAMコロナ融資返済を取り巻く現状

医療機関を取り巻く環境変化

医療機関における返済負担の増加は2023年から既に顕在化しています。毎月数百万円規模の返済が必要となる中、2023年5月にコロナが5類感染症に移行したことに伴い病床確保などを目的としたコロナ補助金が終了し、さらに入院料に関連した診療報酬の改定(重要度、医療・看護必要度の厳格化)による収入減、人件費・光熱費の上昇による経費増が病院経営の圧迫要因となっています。

実際にWAMの調査において、2023年度、病院の経常利益率はすべての病院類型(一般、療養、精神)で低下している[2]ことが示されております。
感染症対応のための設備投資や人員増強を行った医療機関では、固定費が増加した状態で返済期を迎えることとなりますが、病床利用率はコロナが5類に移行した2023年度においてもコロナ以前(2019年度)の割合と比較して3.8%程度低いまま[2]であり、依然として患者数はコロナ前の水準に戻っていない状況です。医療機関は医業収入の増加が抑制される環境の中での融資返済を迫られています。

病床利用率の低下以外にも世界的なインフレや円安の影響による人件費・水道光熱費・医療機器価格の上昇など、医療機関は様々な変化に直面しています。医業収益に占める医療材料比率はコロナ以前(2019年度)に20.7%だったのに対し、2023年度は21.9%と1.2ポイントの上昇[2]をみせています。

また、2023年度診療報酬改定においてベースアップ加算がなされましたが、実際の運用においては加算の対象外となる職員に対しても現場の士気・モチベーションの維持を図るため給与を増額せざるを得ない状況にあり、加算を上回る経費増を迫られる形となりました。

厚生労働省は令和6年度に2.5%、令和7年度に2%の賃上げを目指す[3]としていますが、2024年(令和6年)春闘における全産業平均の賃上げ率が5.1%[4]であったことを踏まえると、医療従事者への賃上げは依然として十分とは言えない状況にあり、今後も継続的な賃上げが必要になる可能性が高いことを加味しておくべき状況です。

一方で治療費などの価格は公定価格であるため、医療機関はコストの増加を価格転嫁できず、構造的に収支が悪化していく環境に置かれてしまっています。
医業収入の単価向上が行えない中、回転率を高める方策を実施する医療機関も現れましたが、職員の疲弊による退職を誘発し、逆に医業収入が減少するという悪循環に陥ってしまうケースも散見されます。

日銀による利上げも懸念すべき事項です。日銀は1/24の政策金利決定会合にて、政策金利の引き上げを実施しました。これにより金融機関自身の資金調達コストが上昇したため、従来と同水準の金利で融資を実行できない環境となっています。また、今後の見通しについて日銀の植田総裁は「先行きの経済・物価・金融情勢次第」であると前置きしつつも「現在の実質金利がきわめて低い水準にある」[5]と発言しており、今後も金利が上昇していく可能性が高いことがうかがえます。
WAMコロナ融資返済のために金融機関から資金調達を行う場合、以前より金利負担が重くなる可能性が高くなっています。

  1. [2]独立行政法人 福祉医療機構.”2023年度病院の経営状況について”.独立行政法人 福祉医療機構HP.2025-01-31https://www.wam.go.jp/hp/keiei-report-r6/,(参照 2025-03-10).
  2. [3]厚生労働省 保険局医療課.”令和6年度 診療報酬改定の概要”.厚生労働省HP.2024-03-05ttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000196352_00012.html,(参照 2025-03-10).
  3. [4]日本労働組合総連合会.”2024 春季生活闘争 まとめ”.日本労働組合総連合会HP.2024-07-19https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/2024/houshin/data/matome20240719.pdf?8377,(参照 2025-03-10).
  4. [5]日本銀行.”総裁記者会見”.日本銀行HP.2025-01-27
    https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/index.htm,(参照 2025-03-10).

返済負担軽減への具体的アプローチ

返済負担を軽減するにあたり、収益面の改善が図れないか今一度確認することをお勧めします。すでに様々な取組みを行われているとは思いますが、些細なことであっても収益改善につながる取組みを継続することが収益性を向上させるだけでなく、金融機関からさらなる信頼を獲得することにつながります。

診療報酬点数の再確認

診療報酬の算定状況を定期的に確認して算定漏れを防止するとともに、以下に例示するような新設された加算を取りきれているか確認することが重要です。

急性期1算定病院:2023年8月に紹介受診重点医療機関が各都道府県ごとに明確化されました。[6]
これにより紹介受診重点医療機関入院診療加算の算定が可能になっている医療機関が増加しています。

入院初日に800点を算定できるこの加算をとれそうか、今一度点検してみるべきでしょう。なお、紹介受診重点医療機関リストは各都道府県のホームページや厚生労働省のホームページに記載されています。(厚生労働省ホームページ:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000123022_00003.html

療養病棟入院料1算定病院:2024年の診療報酬改定で療養病棟基本料の分類が従来の9分類から30分類に細分化されました。[7]労力のかかる作業にはなりますが、コスト増加のトレンドが継続する以上、医療区分やADL区分の高い患者の受け入れに向け他機関との連携を再点検する必要があるでしょう。

精神科病院:2024年度診療報酬改定では精神科地域包括ケア病棟入院料や精神科入退院支援加算の新設[8]など、患者様を病院から地域生活へ移行していくことを念頭に置いた加算が目立っています。引き続き地域移行にむけた取組を実施する必要があるといえます。

レセプト診断サービスの活用

診療報酬点数の加算漏れは収益性を悪化させるだけでなく、金融機関が本来の実力と乖離した収益力に基づいて医療機関を評価をしてしまうことにつながり、金融機関からの融資額にも影響を与えます。

日頃よりレセプト請求業務の業務改善について取り組まれているとは思いますが、これに加え、外部のレセプト診断サービスを活用することも一考に値する取組みです。レセプト診断サービスを利用することで客観的にこれまでの請求内容の妥当性を判断することが可能になります。また、診断後は加算の取りこぼしを防げるようになる他、請求担当者のノウハウ向上が期待でき、コストは発生しますが恒常的な医業収入の増加につながる取組みといえます。

レセプト診断サービスを利用する際はレセプト請求担当者に対する業者の姿勢に注意しましょう。医療機関におけるレセプト請求担当者は日々多忙な中、頻繁に改定される複雑な報酬体系に基づいたレセプト請求や算定漏れ防止のため最大限の努力をされております。

上から目線で指摘をしたり、長年積み上げてきたスキル・ノウハウを一方的に否定するような業者を利用してしまうと職員からの信頼を失い、離職者の発生など、医療機関の経営に悪影響をもたらしかねません。

レセプト診断業者は多くの場合、診断結果について報告会を開催します。報告書のサンプルや実施スタンスなどを事前に確認し、不必要な軋轢を防止しましょう。当事者として共に経営改善に取り組むという姿勢の業者が理想です。

ベッドコントロールの改善

ベッドコントロールを通じた病床稼働率の向上も重要です。効率的に病床を稼働させるため、コストは先行しますがベッドコントロール機能のあるシステムを導入し、省人化・効率化について改善余地がないか検証していくべきでしょう。

補助金・給付金の活用

令和6年度補正予算案において、医療機関や介護福祉施設の賃上げを支援する取組みが多く盛り込まれました(12/17成立)。執行の時期は都道府県における予算化の状況などに影響されますが、職場環境の改善支援(賃上げなど)として828億円が計上されているなど、各種の財政支援が予定[9]されています。
申請方法などについて、各都道府県のHPで情報収集を行われることをお勧めします。

補助金の例)[9]
支給対象:給付金を活用した更なる賃上げとなる取組
支給額:
病院・有床診療所:許可病床数×4万円
※許可病床数が4床以下の有床診療所は1施設×18万円を支給
無償診療所:1施設×18万円
訪問看護ステーション:1施設×18万円
※詳細な支給条件については厚生労働省HP・各都道府県HPにてご確認ください。

コスト管理の徹底

支出面では、医療材料の共同購入や後発医薬品の使用促進、委託契約の見直しや再点検を行い、支出を適正化していく必要があります。
また、医療従事者のタスクを見直し、医師から事務員へ移行できるタスクを移行することで医師の時間外労働を減らし、人件費の増加を抑制できないか検討する必要があります。

  1. [6]厚生労働省保険局医療課.“令和4年度信用報酬改定の概要 外来Ⅰ”.厚生労働省HP.2023-03-04https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000920428.pdf,(参照 2025-03-10).
  2. [7]厚生労働省保険局医療課.”令和6年度診療報酬改定の概要【入院Ⅳ(慢性期入院医療)】”.厚生労働省HP.2025-03-05https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001218901.pdf,(参照 2025-03-10).
  3. [8]厚生労働省保険局医療課.”令和6年度診療報酬改定の概要【重点分野Ⅱ(認知症、精神医療、難病患者に対する医療)】”.厚生労働省HP.2025-03-05https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001218901.pdf,(参照 2025-03-10).
  4. [9]厚生労働省.”令和6年度補正予算案の主要施策集” .厚生労働省HP.2024https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/24hosei/dl/24hosei_20241129_01.pdf,(参照 2025-03-10).

資金調達手段の多様化

診療報酬債権の活用

返済負担の増加に対応するため、医療機関では新たな資金調達手段の検討も進んでいます。診療報酬債権を活用したファクタリングはその代表的な例です。ファクタリングを活用すると診療報酬の入金を待たずに必要な運転資金を確保することができます。

また、金融機関やWAMとの融資条件の交渉は中長期的な対応が必要ですが、ファクタリングであれば短期間で資金調達のめどが立つ点も利点です。
ただし、ファクタリングの活用には慎重な検討が必要です。手数料や契約条件の確認はもちろん、長期的な経営戦略との整合性を十分に検討する必要があります。

銀行融資やファクタリングなど資金調達の手段は様々ありますが、いずれの手段を活用するにしても早めに各金融機関と接点を作っておくことが医療機関の資金ショートを防止し、安定した地域医療を提供することにつながります。

まとめ:持続可能な医療経営の実現に向けて

WAMコロナ融資の返済を単なる財務上の課題ではなく、医療機関の経営体質を強化する機会として捉えることが重要です。返済負担の軽減を図りながら、同時に経営基盤の強化を進めることで、地域医療を支える持続可能な体制を構築することができます。

不必要に焦る必要はありませんが、金利が上昇することを見越して長期的な取組に活用する資金の調達に関してWAMコロナ融資返済の資金調達と合わせて金融機関に相談するのもよいでしょう。短期的な利益だけでなく、担当する医療機関/地域の成長に関心のある金融機関ほど興味を示してくれるはずです。

このプロセスでは各都道府県医師会の経営相談窓口、医療経営コンサルタント協会などの専門家による支援も積極的に活用すべきでしょう。外部の専門家の視点を取り入れることでより効果的な解決策を見出すことができます。

WAMコロナ融資の返済は確かに大きな課題ですが、この機会を活用して経営改善を進めることでより強固な経営基盤の構築が可能となります。重要なのは現状を的確に分析し、具体的な行動を起こすことです。本稿がその取り組みの一助となれば幸いです。

監修:浅野良和

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